PICKUP 対談
下村博文氏
平井卓也氏
髙橋洋一氏
デジタル化による国民生活のメリットは?
河端今、日本では「デジタル化」が大きな課題となっています。今日はその辺りを詳しくお聞きしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
下村よろしくお願いします。
河端さて、日本人の多くは日本を「先進国」だとずっと思っていました。それがコロナ禍により、例えば行政機関で感染者数を今時FAXでやりとりしていたことが発覚するなど、デジタル化が他国より大きく遅れていることが周知の事実となりました。その辺り、どうお考えですか。
下村日本は20年程前に「IT国家」として世界の最先端を目指すと宣言しており、国民も日本のIT化は進んでいるものと思い込んでいました。ところが実際は我々が想像する以上のスピードで世界のデジタル化の波は進んでおり、オンライン通信をはじめコロナ対策に伴う各国のデジタル事情が報道されることで、日本が立ち遅れていることが表面化してきたわけです。
河端そうした背景もあり、菅内閣発足時にデジタル庁の新設と、平井卓也デジタル改革担当大臣の入閣が発表されたのですね。デジタル庁の設置は報道を通じて知っていますが、結局のところ我々のメリットは何なのかなど、よく見えない部分もあります。
下村国民のみなさんにとってのメリットをご説明するうえで、わかりやすく具体的な例としては、マイナンバーカードが挙げられます。
河端マイナンバーカードは、健康保険証や運転免許証と一体化される話もありましたが。
下村今現在のマイナンバーカードの普及率は約20%です。実際の主なメリットといえば、身分証明書として使えたり、住民票や戸籍謄本などをコンビニ等で発行できたりするぐらいで、正直これでは少し物足りませんよね。そこでまず今年度中には健康保険証を、そしてできるだけ早い段階で運転免許証のデータをマイナンバーカードと連動させていきます。その最大のメリットが「デジタル化」による恩恵です。例えば病院の受付も今後は顔認証で自動化されていくでしょうし、今はマイナンバーカードを持っていても引っ越し等の際は、カード持参で元の役所と新しい役所に行くことが必要ですが、その手間が一気になくなります。つまり平日に会社を休まずにオンラインで引っ越し等の手続きも完了するわけです。こうした利便性は運転免許証の更新の際も感じられるでしょう。
河端役所に足を運ばずにオンラインで各種手続きができるのは、働く社会人にとっては大きなメリットですね。
下村さらに国民のみなさんが身近に感じられる例を挙げましょう。昨年の一律10万円の特別定額給付金についてです。国民への支援が早急に必要だと国会で議論されたのが3月のことでしたが、実際に給付されたのは早いところでも6月以降。支援が決まってから給付まで3カ月以上かかっているのです。例えば北欧ではマイナンバー制度が国民に浸透しており、そこに口座情報も入っているため、申請すれば翌日には給付金が振り込まれました。もちろん申請もオンラインです。このスピード感は何より大きなメリットだと思います。
河端確かに給付金をもらえるのは有難いものの、その申請の手間であったり、タイムラグであったりは、少し不満を感じる部分もありました。また役所の方々がすべて手作業で申請書類を確認している姿にもデジタル化の遅れを感じさせられました。
下村そうですね。もっと言えば、これは日本では賛否両論あるでしょうが、北欧のマイナンバー制度は、個人の所得や財産なども紐づいています。このことで所得に応じて必要な人に必要なだけの額の給付金を支給することが可能になるのです。日本でもコロナの影響で所得が減らない公務員に給付金は必要なのかとの議論もありましたが、そうした不公平さが解消されます。とはいえ、日本でも所得別の支給は仕組み的には可能でしたが、そのために膨大なお金と時間がさらに必要となったでしょうから、あのタイミングでの一律給付の決断は最善策だったと思います。
河端デジタル庁の新設が今年の9月で、マイナンバーカードと健康保険証の連動がその前の3月ということは、デジタル庁の設置を待たずして、デジタル化の政策は進んでいくわけですね。
下村デジタル化は、すべての分野において国民のみなさんが「便利になったな」と実感できる社会を作ることが大前提です。そしてそれは喫緊の課題です。まずできることから積極的に進めていくことが必要だと考えています。ぜひ新設される「デジタル庁」にご期待ください。
現代の日本が抱える教育の大きな課題
河端今回のコロナ禍で、オンライン授業の対応をはじめ、教育業界におけるデジタル化の遅れが明らかになりました。
下村教育業界の話で言えば、コロナに関係なく、もともと1人1台のタブレット配布は決まっていました。しかし休校措置がとられ、整備が行き届かない環境のなか、多くの生徒児童の学びがストップしてしまったことから、タブレットの配布が前倒しされ、年度内にはすべての小中学校に届けられる予定です。
河端enaでも全校舎でオンライン授業を実施しましたが、やってみてわかったことは、Wi-Fi環境の整っていないご家庭もまだまだ結構あることです。またパソコンやスマホはご家庭にあっても子どもが自由に使えるものは少ないことでした。
下村その通りです。タブレットを学校だけでなく、家庭や学習塾でも活用できれば学習の相乗効果が生まれるはずですが、それぞれにWi-Fi環境が整っていることが必要ですし、特に家庭に関してはそうした環境の充実度にまだまだ差がありそうです。そうしたことにも今後は目を向けていく必要があります。タブレットだけを配布すれば終わりではありません。デジタルの拡大が、さらに教育の格差につながっては元も子もないですから。
河端我々の塾だけでも環境整備にいろいろと調整が必要でしたから、全国規模となるとそのご苦労は大変だとお察しします。とはいえ子どもたちの未来のために絶対に必要な政策ですので、ぜひとも成し遂げていただきたいと思います。
下村そういう意味では、このデジタル化によって、学校の概念も変わっていくのかもしれません。今の学校は戦前の軍隊方式、集団的な教育が核になっています。それはそれで高度経済成長期までは、司馬遼太郎の『坂の上の雲』ではありませんが、日本が定めた方向に向かって、国民一人ひとりが遅刻もしない、サボらない、やるべきことをきちんとするという画一的な教育が必要だったのです。しかし今や人工知能やロボットが人の仕事に取って代わろうという時代。ロボットは24時間働いても疲れませんし、工場の流れ作業などの単純作業はAI が得意とするところなので、必然的に人の仕事も変わってきます。人にはもっと人間らしい、クリエイティビティやホスピタリティの部分が求められるようになるのではないでしょうか。
河端デジタル化によって子どもたちが目指す分野もこれまでとは異なるのでしょうね。
下村それに関して興味深いデータがあります。OECD(経済協力開発機構)が2018年に実施した「生徒の学習到達度調査(PISA)」によると、日本の高校生は「人生の意義」に関する3つの質問「自分の人生には明確な意義や目的がある」「自分の人生に、満足のいく意義を見つけた」「自分の人生に意味を与えるのは何か、はっきり分かっている」において、74か国の中で最も否定的な回答だったそうです。74番目の最下位でした。その一方で、「最近2週間のうち次のことはありましたか?学校を無断で欠席した、授業をサボった、学校に遅刻した」という調査に関してはほとんど当てはまらず、71か国中で1番良い成績だったのです。つまり日本の高校生は、世界で最も真面目で遅刻も欠席もしない代わりに、将来に夢も希望もないということになります。これでは何のために勉強するのか、切ないですよね。
河端それも画一的な教育の弊害かもしれません。そういえば以前、知り合いの外国人が修学旅行生の団体を見て「彼らは囚人か?」と聞いてきました。日本人はみんな揃っての集団行動は得意ですが、はみ出したり、とんがったりする個性に乏しいのです。これではクリエイティビティは育たず、日本からGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)は生まれないと思います。
下村デジタル化はあくまでも手段のひとつです。これからはデジタル時代を支える人材を育てなければなりません。世の中のデジタル化が進むからこそ、人を育てる教育の役割が重要になってくるのです。
デジタル時代における日本の教育の在り方
河端デジタル時代の日本の教育はどうあるべきだとお考えですか。
下村キーワードは「個別最適化」だと思います。子どもたち一人ひとりの興味関心に合わせてサポートすれば、普通の集団学習よりも断然能力が伸びるはずです。平均的にみんなが同じことをやっていればよかった時代はもう終わりました。古い教育ではロボットや他国に太刀打ちできません。もっとその子が何をやりたいのか、やりたいことに対してもっとサポートできる環境、努力を続けていける環境が必要。その子の持つ能力を開発していくことこそが、本当の教育であるはずなのです。
河端その課題解消にもデジタル化がカギになるのですね。
下村現在の学校教育は教育指導要領に応じて、例えば「中2の2学期にはこの範囲を学ぶ」など、基本的な進度が決められています。ただ、その進度に合っている生徒がどのくらいいるのか、ついていけていない生徒はいないのか、さらには物足りなくもっと学びたい生徒もいるのではないか、といった部分は考慮されづらいのが現状です。紙の教科書と黒板を使った授業では、実際問題として個々の生徒に対応することは難しいと思われます。
河端そうですね。
下村しかし、タブレットを使えば、それぞれの子どもたちの能力に応じて、個別にできるところから取り組ませることも可能です。中には中2で高校レベルのことをできる子どももいるでしょうし、本当の意味で個々に合った学習が行えます。実は私も高校入学前の春休みに、高校数Iの教科書の問題をどれだけ解けるか挑戦しました。2週間程度の期間でしたが全問解くことができたのです。
河端それはすごいですね。
下村今思えばすごいなと思いますが、そのときは高校入学後の授業に新鮮さを感じませんでした(笑)。ただ言いたいことは、タブレットによる個別授業が確立されれば、勉強をやりたい人はどんどん進められるし、学習意欲も高められるということです。
河端確かに教育のデジタル化は大切ですが、やはりそこには教師という人間の存在は欠かせません。
下村それはもちろんそうです。
河端私が生徒たちを見ていて感じるのは、例えば算数が好きな生徒は、教えてくれる算数の先生のことが好きな子が多いように思います。つまり生徒の学習意欲には教える側の教師の個性や魅力も大切なのです。従来教育は一番人間的なもの。そういう憧れの対象が存在する環境が必要なのでしょう。
下村どんなに勉強ができる子どもでも自分だけの力でどんどん勉強を進められる子は多くありません。やはりどんな先生と、どんな指導者と出会えるかは重要です。
河端学習能力を高めるうえでも教師の存在は大きいと思います。
下村私が小学5年生のころの話ですが、家庭科の授業に必要な裁縫道具を家庭で作ってもらうという課題がありました。うちは母子家庭で貧しかったこともあり、母親に頼めないでいたのですが、ある日学校が終わって先生に呼び出されて、「お母さんは忙しくて裁縫道具を作る時間がないだろうから私が作ったのを使いなさい。私が作ったことは誰にも言わないで、そっと使うように」と言われたことがあるのです。今だと一部の生徒をひいきするのかと批判の対象となり、問題になることかもしれません。でも私はそういう先生の優しさが本当に身に染みたのです。今でもはっきり覚えているぐらいですから。
河端それは一生心に残りますよね。
下村昔は世の中に余裕があって、人の心にもゆとりがありました。一人ひとりの生徒に対してフォローしてくれる面倒見の良い先生がたくさんいました。
河端今の時代は生徒も親も先生もみんなが忙しい。子どもが昔よりも孤独感を感じてしまわないか心配です。
下村ただ忙しくてもその先みんなが幸せになれるのならいいのです。でもそうでないなら、今一度立ち止まって、ライフサイクルを考え直すことも必要かもしれません。私は今「日本Well-being計画推進プロジェクト」といって、今までのGDPを基盤とする考え方ではなく、新たに「幸福度」という「ものさし」を通して、国民生活の向上を目指す取り組みにかかわっています。「子どもたちが幸せになるための教育とは何か?」「人々が幸せになるために必要な経済支援は何か?」といったことをこれからも追求したいと考えています。
学校の理念や仕組みも多様化していく時代
河端不登校やいじめは今も社会問題になっていますが、これからオンライン授業が日常になれば、学校に行く必要がなく、自宅で授業を受けられるので、不登校もいじめもなくなると思うのですが。
下村不登校は、学校に行くことが当たり前で、行かないことに問題があるという考え方が前提です。しかしコロナによって教育に対する価値観も変化しました。例えば大学に入学したのに1度もキャンパスに行けていない学生もいますが、それでもオンライン授業によって効果のある学習ができているとの報告もあります。学校に行くことがすべてではなく、オンラインによる自宅学習がしっかりと機能するのであれば、緊急時だけでなく平常時であっても単位を認めるとの考え方もできるはずです。
河端なるほど。ただ大学生と小中学生とでは、状況も変わってきそうですね。
下村その通りです。小中学生の場合は、各教科の学習も大切ですが、集団の中で過ごしながら人間関係を作り、協調性やお互いを思いやる心を育むことも必要なので、すべてをオンラインで済ますわけにはいきません。だからといって学校での授業がベストで、自宅にいるのはダメだという考え方は違うと思うのです。
河端はりデジタル化によって学校の仕組み自体も変わりますか。
下村そうですね。学校の仕組みも緩和すべきかもしれません。例えば、フリースクールのような組織も学校としてしっかり認可していくことも必要ではないでしょうか。毎日8時に集団登校して、毎日15時まで集団授業を受ける。それに同調できない子はダメだという風潮を変えなければなりません。子どもたち一人ひとりに合った学び方の仕組みがあるはずなのです。
河端これからの学校が掲げるべき理念は、学習塾の考え方に近づくような気がします。
下村そうかもしれません。今後は日本でも「飛び級」のような制度が出てくるはずです。海外では日本でいえば中学生くらいの子どもが大学に飛び級で入ることができます。みんなが同じことをやらなくても良いのです。伸びる子はどんどん伸ばせばいいし、躓いている子には躓いたところからきちんと教えていく。一人ひとりに合った指導、これは数学や英語だけでなく、芸術系にも言えることです。絵を描くのが好きな子、音楽が好きな子、そうした本人の興味のある部分をもっともっと伸ばせる教育が理想です。
河端わかります。多様性が認められる教育でなければなりません。
下村東大でも「異能」を育てようとする動きがあります。不登校であったり、発達障害であったり、普通の学校に通うのは無理でも、そういう子どもこそ天才的な能力を秘めている可能性があることを研究しているのです。エジソンも今で言えば発達障害を持っていたと言われています。やりたいことだけをとことんやることで人類に大きく貢献する発明をしました。
河端アインシュタインも今の受験では合格できませんよね(笑)。
下村そうですね(笑)。フリースクールは既存の学校以外に選択肢があるよという考え方の象徴だと思います。不登校の子を学校に引き戻すだけが正解ではありません。フリースクールも資金面の補助があればもっと劇的に変われるはずです。実は文科大臣時代にも考えていたことなのですが、そのときは周囲から時期尚早と言われて実現できませんでした。あらためて取り組んでみたいと考えています。オンライン授業の浸透、タブレット配布の前倒しなど、教育業界に関してはコロナによってプラスに転じたこともあったと前向きに受け止めて、これからさらに教育のデジタル化を推し進めてまいります。
河端今日はありがとうございました。
下村ありがとうございました。
(対談日2020年12月9日)
下村 博文(しもむら はくぶん)
1954年群馬県生まれ。衆議院議員。元文部科学大臣。早稲田大学教育学部卒業。平成元年東京都議会議員に初当選。2期7年を務めた後、1996年第41回衆議院総選挙において東京11区より初当選(現在8期目)。2020年、自由民主党政務調査会長に就任。党内に新設されたデジタル社会推進本部では本部長を務める。自ら学習塾を立ち上げた経歴を持つなど特に教育分野に造詣が深い。著書に『9歳で突然父を亡くし新聞配達少年から文科大臣に』(海竜社)、『教育投資が日本を変える』(PHP研究所)などがある。
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デジタル庁新設の背景と期待される役割
河端本日はよろしくお願いします。まず平井大臣には、何を置いても新しく設立されるデジタル庁についてお伺いしたいと思います。役所を一から立ち上げる経験はなかなか貴重ですよね。
平井本当にそう思います。しかもまったく前例のない新しい役所ですから。巡り合わせとはいえ、政治家冥利につきます。
河端ではあらためてデジタル庁新設の背景を教えてください
平井新型コロナウイルスによって人々の移動、活動が停止し、経済がここまで落ち込んでしまうことは、日本はもちろん世界中の国々にとっても想定外の経験でした。そして日本はデジタルの技術でそれらをカバーすることができなかったのです。特別定額給付金の10万円を給付するのにもかなりの時間とコストをかけてしまいましたし、学校も医療もすべてがコロナの影響をもろに受けてしまいました。その一方で多くの国はデジタル化の推進によってコロナの影響を最小化していたのです。
河端そのことは我々も報道を通じて実感させられました。
平井内情を言えば、日本人は世界のデジタル化の動向に気づいていませんでした。知らない間に他国はデジタル化によってものすごく便利な世の中を築いており、日本はそのことに今回初めて気づいたわけです。そこで日本の社会を一気にバージョンアップさせるために、デジタルの力を社会の隅々にまで浸透させていこうというのが、今回のデジタル庁の取り組みであり、使命です。
河端新しい庁を作ると言っても、まずは何から取りかかるのですか。
平井とにかく人・物・金ともに何も権限のないところからのスタートになるので、まずはどういう権限を持たせて、どういう予算を取り扱って、具体的に何をするのかということを考え、人・物・金に関する法律と基本方針を作ることから始めます。それを法案として国会に提出し、法律によって各省から権限と予算と人をどんどん集められるようにするとともに、新しい定数の枠を取って、そこには民間からも人を入れられるようにします。若手官僚と民間のエンジ二アとの合同チームが主力となって、デジタル庁は運営をスタートさせる予定です。
河端よく耳にするマイナンバーカードと運転免許証や健康保険証を一体化する話も、徐々に対応していくのですか。
平井マイナンバーカードに関しては既に取り組みを進めています。実は運転免許証についてですが、警察当局が情報を管理する際、47都道府県すべてで異なる管理システムが使われていたことがわかりました。
河端えっ、都道府県ごとに管理システムが違うのですか。
平井そうです。すべてバラバラのシステムで管理されていました。ですので、まずはそれらをワンクラウドに集める作業が必要になります。システム全部をひとつにまとめることで、ようやくマイナンバーカードと紐づけられるようになるのです。ワンクラウドにすべての運転免許証の情報を入れておけば、どこからでも免許の更新ができますし、違反のない人ならWebで講習を受けて、それだけで更新ができるようになります。
河端それらはいつ頃に実現する予定なのですか。
平井マイナンバーカードと健康保険証の紐づけは2021年の3月には実施されます。ただ運転免許証は、システムをひとつにまとめる作業があるので、もう数年かかりそうです。ただし、少しでも前倒しできるように進めていきます。(2024年度末までに実現する方針)
河端国民としては、マイナンバーカードと銀行口座との紐づけについても気になります。
平井銀行口座は希望する方のみ紐づけることにする予定です。まだまだ日本では政府に銀行口座を覗かれるのではないかという不安をお持ちの方が多いようですから。
河端「財布」の中身を見られることに抵抗感があるのでしょうね。
平井多くの方が誤解されているので申し上げておきますが、マイナンバーカードと銀行口座を紐づけたとしても、政府が国民の口座の中身を覗くことはできません。犯罪調査と税務調査等以外で、勝手に他人の口座の中身は見られないようになっているのです。そこに大きな誤解があります。銀行口座を紐づけておけば、万一の災害時などにおいても利便性が高く、それこそコロナの定額給付金のときも一瞬にして給付金が支給されたはずです。今までの日本の常識は世界ではもう非常識。役所に行く度に同じような書類を何回も書く、口座番号をその都度役所に持っていくなんてことは、これからはあり得ないことです。
河端確かにマイナンバーカードを銀行口座と紐づけておけば何かと便利そうです。
平井結局、自分の口座を隠したい人が多い挙句、毎年誰のものかわからない休眠口座が500億円も出てきます。それらすべてを国が没収せざるを得なくなっているのは、非常にもったいない話です。いかに銀行口座の紐づけが便利であるかを国民のみなさんに知っていただきたいですし、ご理解いただきたいと思います。
すべてがデジタルでつながる社会の構築へ
河端デジタル庁では、民間企業との連携や支援はどのように考えているのですか。
平井例えば、システムを構築したり、国民にサービスを提供したりするデジタル系のベンチャー企業とどんどん協力していきたいと考えています。また民間企業が取り組むデジタル化に関しても、積極的に支援していくつもりです。さらには今回のデジタル庁のひとつの特長は国のシステムだけを見るのではなく、地方自治体のシステムと国が連携できるように、構造を変えていくことにあります。地方の話もしっかり聞きながらお手伝いしていく予定です。
河端それは素晴らしいですね。
平井これらを推し進めるには数々の規制改革が必要になりますが、そこは河野太郎行政改革担当大臣と私がタッグを組んで、例えばデジタル教育に不都合な規制があった場合は文科大臣を交えて3人で、いわゆる「2+1(ツープラスワン)会議」を行って規制改革について話し合っていくことになります。
河端ここまで国と民間や地方とが一緒になって取り組む動きは、あまり見られなかったことですね。
平井国がここまで本気になって、基本となるインフラを整備するわけですから、民間企業にはどんどん積極的に活用していただきたいと思います。例えばマイナンバーカードの認証によって遠隔で銀行口座や証券口座を開設できるシステムは既にありますが、もっとありとあらゆるものがデジタル化でつながる社会を構築したいのです。マイナポータルなどをすべて安全性の高いオープンAPIにして、民間サービスとつなげられるようになれば、非常に安心で便利なデジタル社会が構築できます。日本人は新しいことに慎重ですが、確実で安全なサービスが提供できるシステムだとわかれば受け入れられるはずです。こうした動きは民間企業にとっても大きなビジネスチャンスになると思います。
河端ここで教育関係の話に目を向けますと、中国などでは何兆円という規模の予算を使って国がオンライン教育の設備を整えています。確かにオンライン授業をするだけならZoomを使って誰でもできますが、例えばAIを駆使したシステムとなると国の後押しが必要です。
平井私も中国の教育系のベンチャー企業の中身など、いろいろ調べてみましたが、想像を遥かに超えるぐらい進んでいます。試験問題の予想などは、大学生が何人も協力したうえにAIを用いており、あそこまでやられたらどんな試験でも合格できてしまいそうです。幼児教育の段階から4人セットにして、ゲーム会社が作った教育ツールで学習するなど、能力開発に関しては、かなり思い切った政策を進めていますね。
河端ただ中国は、そこに生まれる格差が問題です。
平井そうですね。中国はある程度お金が使えて、優秀なポジションに就こうと思っている人たちにとっては、ものすごく多彩なチャンスが広がっていると言えますが、切り捨てられた人たちはそのままであるという貧富の差が激しく、ある意味そのことを社会自体が容認している部分もあります。そういう意味では日本が中国と同じように進めることは難しいでしょう。例えば全く逆の発想で、日本は誰も取り残さないという意味で、AIが必要になってくるのかもしれません。
河端とはいえ国が後押ししてくれる中国の仕組みは、我々にとっては心強く映ります。
平井日本でも経済産業省が「EdTech」、文部科学省が「GIGA スクール構想」で教育業界の支援を行っていますが、それぞれがうまく連携できていない印象です。そこが残念ですし、課題であると思います。
河端まだまだ中国と日本のデジタル化の進み方には天と地ほどの差がありますね。
平井ただここから日本は盛り返していかなければなりませんし、またそれができると考えています。そのためのきっかけとなるのがデジタル庁なのです。
日本の教育業界もデジタルで大きく変わる
河端このコロナ禍で、例えば私立の学校ではZoomなどを使ってオンライン授業をするところが多くありましたが、公立の小中学校では、ほとんどオンライン授業ができませんでした。
平井義務教育課程におけるコロナ対策、そこが一番の問題です。結局学校に行かないと授業時間にカウントされないのでは、今後は大変厳しい状況になると思っています。今回のコロナ禍で学んだことは、少なくとも日々の学習はハイブリッドに対応すべきだということです。家での学習時間と学校で学ぶ時間とをバランス良く両立して、調整していくことが現場のこれからの仕事になります。
河端日本は社会全体のデジタル化を進めることが急務ですが、日本の将来を考えたとき、教育の力で若い人材をもっと育てなければなりません。それこそGAFAを生み出すようなデジタル人材が絶対に必要なのです。GIGAスクール構想で今年度中にタブレットが全国の小中学生に配布される予定とのことですが、タブレットが配布されることと、オンライン授業を充実させることは別の話ですよね。
平井今はハードウェアを整えている段階です。1人1人のタブレットを配布し、学校までの光ファイバーを整備し、回線の容量を補正予算で付け足します。そのタブレットは家でも塾でも自由に使ってもらえるようにして、もしWi-Fiなどの設備がなければ貸し出せる準備も整えます。こうしたインフラ整備までが政府の仕事です。そこから先の教育の中身に関しては、やはり教育現場の方々に頑張っていただく領域だと考えています。
河端学校の先生がもっと本気で取り組まなければ、なかなか進まないですね。
平井デジタル化に関しては生徒の方が一歩先を行っていますからね。生徒はどんどんデジタルで色々な知識を学べるし、どんどん進んでいくのに、学校の現場だけが遅れている。学校の先生は今まで1人で多くの生徒を同時に教えることが当たり前でした。しかしデジタルの時代は、この生徒はこう、この生徒はこう、というように個々の生徒への対応が必要になってきます。さらには教材もデジタルでつながり、多岐にわたって学べる環境になると、ティーチングよりもコーチング的な指導が求められるのかもしれません。それがデジタル時代の新しい教育のカタチです。
河端そうですね。個別に対応できることがデジタルの一番の強みですし。
平井学習を先に進めたい子はどんどん進めばいいし、滞って困っている子は何故困っているかを理解してあげてそれに合わせて教えることもデジタルなら容易にできますから。
河端個々を大切にする教育の重要性は下村政調会長もおっしゃっていて、フリースクールについても熱く語られていました。
平井その子のことを考えて、その子にとってベストなソリューションを作っていくというように教育界全体が変わっていかなければなりません。ハンデのある人やいじめられている人に個別の配慮ができることがデジタルの良さなので、ぜひこれをもう一度教育現場の人たちにも考えていただきたいです。
河端我々もその一端をお手伝いさせていただきたいところです。
平井それはぜひお願いします。デジタル庁の大きなスローガンのひとつに「No one left behind」があります。「誰一人取り残さない」という意味です。フリースクールもそうですが、やはりそういう制度は認めていかないと誰かを取り残すことになってしまいます。学校の代わりに教育を提供できる場所があり、そこを求める子どもがいるのであれば、認可しても全く問題ないと思います。これまで日本の教育はデジタル面で世界から遅れていましたが、ここからはデジタルが日本の教育を大きく変えていくことになるはずです。
これから必要なのはAIを使いこなす人材
河端先程ハイブリッドの授業の話が出ましたが、我々enaでも対面授業と映像授業を組み合わせた「ダブル学習システム」を展開しています。休校期間中に対応した映像授業の評判がよく、通塾が再開したあとも保護者の方々から「映像授業を継続してほしい」との要望があったのです。
平井enaさんもまさに「生徒ファースト」で取り組まれていますよね。
河端ありがとうございます。今回のコロナ禍の休校措置を経て、学習塾業界も完全にデジタルの時代に入りました。我々も本年8月より「家庭教師Camp」という完全オンラインで個別指導を行う家庭教師システムを新しいサービスとして始めました。東大をはじめとする最難関大学に在籍する学生教師から好きな教師を自由に選べて、4コマ3800円で学べるシステムです。今の時代に合ったのか、かなり人気を博しています。
平井それはいいですね。オンライン授業に対するハードルが各ご家庭でかなり低くなりましたから。確かにデジタルによって今まで以上の効果を上げられる可能性もあるのだと思います。
河端弊社には大きく分けて本部が5つあるのですが、それぞれの本部がベンチャー企業のようにデジタルの新しい事業にチャレンジしています。「家庭教師Camp」もそのひとつですが、本社内に映像教材を撮影するための専用スタジオを設けるなど、デジタル時代に備えて積極的に取り組んでいるつもりです。
平井これからも新しいことにどんどんトライしてください。コロナ禍における一過性のものではなく、デジタル化の波はもう止まりません。これから社会は大きく変わり続けると思ったほうが間違いないと思います。
河端デジタル社会で求められる人材には、具体的にはどういった技術が必要になるのでしょう。
平井一言で言えば「AIを使いこなせる人材」が必要です。プログラミングすることをコードを書くと言いますが、これからはAIでもコードを書くことができる時代になります。ですからみんながプログラマーになる必要はないのです。むしろAIが書いたコードを確認し、それを使いこなして何か新しいものを作れる人材が求められます。日本もどんどんそういった人材を輩出していかなければなりません。
河端海外ではこういった教育も進んでいるのでしょうね。
平井そうですね。何と言っても日本は、OECDの調査によると学校現場におけるデジタル化のランキングが最下位ですから。今まで教育現場がデジタル改革というものに及び腰だったことは間違いないのです。ただし、子どもたちのポテンシャルは極めて高いですよ。先日、小学生のプログラミングコンテストの決勝に招かれ、Webを通して拝見したのですが、明日にでもプロのエンジ二アとして仕事を請け負えるレベルの子がゴロゴロいました。心強かったですね。
河端確かにeスポーツの分野でも日本の子どもたちは世界大会などでどんどん優勝していますからね。ただプログラミングコンテストもそうですが、現状はそこまでで成長が止まってしまっている印象です。そうした高いポテンシャルが社会にまで上手くつながっていく仕組みが日本には欠けている気がします。
平井まさにその通りです。ただそれができれば、日本は必ず世界を追い越すことができると信じています。
河端それは力強い、夢のあるお話ですね。
平井そのために、国民みんなの気持ちを変えさせるために、デジタル庁の存在が大きいのです。デジタル庁はそういう意味で社会全体のデジタル化を国民目線で進めるための役所だと言えます。
河端今日は興味深いお話をありがとうございました。
平井精一杯取り組んでいきます。こちらこそありがとうございました。
(対談日2020年12月10日)
平井 卓也(ひらい たくや)
1958年香川県生まれ。衆議院議員(7期)。自民党香川県連会長。上智大学外国語学部卒業。2020年9月、情報通信技術(IT)政策担当大臣、内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度)のほか、新設されたデジタル改革担当大臣に就任。2021年9月のデジタル庁新設を推し進める。この他内閣府特命担当大臣(クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)を歴任。インターネットを利用した選挙活動の解禁や、2015年に施行された「サイバーセキュリティ基本法」制定にも尽力した。
大蔵省から政治の世界へ。歴代首相に認められた手腕
河端今日はデジタルのこと、政治のことなどいろいろとお聞きしたいのですが、まずは髙橋さんのとても興味深く、素晴らしい経歴を読者の方々に紹介したいと思います。大学は東大の数学科を卒業されていますが、数学の勉強自体は全然していなかったとか。数学は元々得意だったのですか。
髙橋物心ついたときから数学は好きでした。自然と理論が頭に入ってくる感じで、中学生の時には大学のテキストが読めたほどです。中学の数学の先生は私が教室にいるのを嫌がっていたようでした。高校時代になると数学の先生に「お前は授業に出なくていい」と本気で言われてしまいました。私の行った小石川高校は単位制の学校で、自由な校風だったので、数学の授業中は授業に出ずに公園でボーッと空を見て過ごしたり、解けない問題はほとんどなかったので、自分で超難解な問題を考え雑誌に投稿したりしていました。
河端そんな髙橋さんが東大の数学科に進むのは納得ですが、東大を出た後に大蔵省(現・財務省)に入られたのは意外です。大蔵省は法学部か経済学部で派閥があるというイメージですから。
髙橋確かに東大法学部出身者が圧倒的に多いです。5人いれば4人が東大法学部で、残り1人が経済学部といった感じでしょうか。数学科出身は当時私が大蔵省歴代で3人目でしたが、私で懲りたのかその後は1人も採用されていません(笑)。当時は「変なやつが入ってきた」とよく言われたものです。
河端ところがその後、髙橋さんは2001年の小泉内閣発足時に突然政治の世界に足を踏み入れられるわけですが、どのような経緯があったのですか。
髙橋小泉内閣に民間から経済財政政策担当大臣として竹中平蔵氏が入閣され、私は竹中さんの補佐官を務めさせていただきました。実は竹中さんとは1982年に同じ大蔵省の職場で仕事をしていたご縁がありまして。私は大蔵省財政金融研究所に人事異動し、そこに竹中さんが当時の日本開発銀行から出向されてきたのです。それ以来20年近いお付き合いでしたが、大臣になられた直後にご挨拶に行ったときに「手伝ってよ」と言われて、軽い気持ちで「いいですよ」と返事したら、そのまま決まってしまいました。人とのご縁は本当に不思議なものだと思います。
河端小泉内閣ではどのような業務を担当されたのですか。
髙橋日本道路公団の改革や政府系金融機関の統合、さらには郵政民営化などにも携わりました。
河端小泉内閣の代名詞でもある「構造改革」にも深くかかわられたのですね。そうした手腕が買われて、続いての安倍内閣でもお声がかかったのでしょうか。
髙橋当時官房長官だった安倍さんに「自分が首相になったら付いて来てくれ」と直々にお願いされました。私は公立大学への就職が決まっていたのですが辞退し、安倍内閣をお手伝いすることにしたのです。いわゆる第1次安倍政権の間、内閣参事官として、財政だけでなく内政も外交も含めていろいろな面で安倍元首相をサポートさせていただきました。
河端第2次安倍政権でもポストには就かなかったものの、度々安倍元首相から相談を受けていたとお聞きしました。
髙橋もう安倍さんとは長いお付き合いですから。
河端そして今回の政権交代では、菅内閣で内閣官房参与のポストに就かれました。菅首相とも元々お付き合いはあったのですか。
髙橋実は菅首相とも長い付き合いです。第3次小泉改造内閣で竹中さんが総務大臣になられたとき、副大臣を務められたのが菅さんでした。ですから補佐官の私と副大臣の菅さんは、年中ずっと一緒に仕事をしていた関係です。今だから言えますが、竹中さんは、例えば人事に関することなどは、ほとんど菅さんに任せていたことを覚えています。
河端数々のエピソードをお聞きしていると、歴代の首相から大きな信頼を得られている髙橋さんのお人柄が伝わってきます。
お金を集める時だけでなく支給時の手続きも簡略化を
河端さて、本題の「デジタル」をテーマにお聞きしたいのですが、何と言っても今回の菅政権の目玉政策のひとつにデジタル庁の設置があります。髙橋さんはどう見ていますか。
髙橋私の知っている限り、平井大臣は自民党の中で最もデジタルの分野に詳しい方です。そういう意味では適材適所の人選だと思います。ただ平井大臣おひとりが頑張っても前には進まないでしょう。党内のデジタル方面に明るい人材を上手く使っていけるかどうかが課題だと思います。
河端最近デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉をよく聞きます。単なるデジタル化ではなく、デジタル革命とも言える大きな取り組みだと思うのですが、政府から聞こえてくるのは、各種手続きの簡略化だったり、ハンコの数を減らすことだったりするのですが、それが本当にDXなのかと考えてしまいます。
髙橋確かに頭ではわかっていても行動が伴っていない部分はありそうです。
河端経営者の立場からすると、DX=新製品なのです。デジタルを活用した新しい製品を世に問うて、それがしっかりと支持を得て、新製品として売れる。これがデジタル革命の基本的スタンスではないでしょうか。
髙橋私自身プログラミングができるので、大蔵省時代に国税庁の長官から依頼されてe –TAXのシステムを作ったことがあります。e –TAXは本人認証とお金のやりとりだけなので、比較的簡単にプログラムが組めるのです。そんな「プログラムの観点」から見れば、DXが注目される今の時代は、大きな変革期であり、大きなビジネスチャンスでもあります。これは河端社長の「経営者の観点」でも同じ見解だと思います。
河端ある意味、当たり前の発想だと思うのですが。
髙橋それが簡単に行かないのが政治と官僚の世界。e –TAX を作ったとき、なぜ大蔵省や国税庁がシステム構築を私に依頼したかと言えば、お金を集められるからです。民間から政府へお金が流れる仕組みを簡略化するのがe –TAX でしたから。ただこの流れを逆にすれば、例えば新型コロナで問題になっている補助金の申請シートなどもすぐに作れてしまいます。つまり補助金を国民に支給するシステムも簡略化できるはずなのです。色々な省庁でこうしたシステムを導入すれば、世の中の多くの手続きが簡単で便利になると、私は昔から主張してきたのですが、省庁間の縦割りのしがらみなどもあって実現に至っていません。
河端確定申告もそうですが、お金を受け取るための手続きはやたらと面倒に感じます。わざと難しくしているのではないかと勘繰ってしまいます。
髙橋お金を集めるのを簡単にするのなら、お金を支給するのも簡単にしないと。申請のための面倒な手続きは、やはりお金を出したくない気持ちの表れなのかと私も思います。こういうことはサービスと考えたほうがいいと思います。もともとe –TAX も税金を簡単に徴収するというサービスをシステム化しただけ。システム化すれば国民の利便性も上がるはずだとの感覚で作ったものでした。
河端まさに私の言う「新製品」と同じ考え方ではないでしょうか。
髙橋そうですね。デジタルがもたらす恩恵は国民のためでなくてはなりません。DXなどと大上段に構えなくても、既存の簡単なシステムでも国民の生活を利便化することは可能なはずです。平井大臣にはぜひとも積極的に新機軸を打ち出していただきたいと思います。
デジタル化こそが日本の働き方改革を進める手段
河端今回のコロナ禍を通じてはっきりしたと私が思うのは、オンライン授業やオンライン診療などは、我が国ではまだなかなか難しいという現実です。
髙橋残念ながら日本のデジタルへの取り組みは、諸外国からかなり遅れていますからね。
河端やはり我々にとって注目すべきは教育業界になりますが、オンライン授業は私立ではほとんどの学校で対応したようですが、公立の小中学校はほとんどができていなかったようです。
髙橋うちの大学でも講義をオンラインでやることに反対する先生はいます。対面授業こそが授業であると。私もゼミぐらいは対面でも良いと思いますが、大教室で行う講義はほとんど教師が一方通行で話す形ですからオンラインで十分なはずだといつも言っています。
河端映像授業は我々も取り入れていますが、対面授業とオンライン授業をうまく使い分けることは大切ですし、これからはそうしたスタイルが必須となるはずです。
髙橋それとうちの大学もそうですが、例えば中国の留学生がいて、コロナの影響で来日できていない学生がいます。それでもオンラインなら中国からでも授業を受けることが可能で、これは大きなメリットです。さらにアーカイブに残しておけば、分からない箇所は何度でも繰り返して見られるので理解度も高まります。
河端確かに何度も見直せて復習できる点は、オンラインならではのメリットです。本人に学ぶ気があって向学心があれば、オンラインでも問題なく学べます。
髙橋本当にそう思います。
河端ena ではオンラインによる映像授業を積極的に推進しています。業界でも一番進んでいると自負していますが、小中学部や大学受験部など、ブランドごとにそれぞれに適した映像授業のスタイルを考えながら展開しています。ベンチャーがそれぞれ一気に立ち上がったようなイメージです。それらもすべて生徒たちの効率的かつ効果的な学びの実現を目指した成果と言えます。
髙橋オンライン授業には、まだまだ可能性があると私も思っています。映像教材の準備が大変だと考えている先生方も多いようですが、普段からテキストなどを独自で用意している先生こそ、実はオンラインの方が楽なんです。板書の代わりにパワーポイントでどんどん授業を進めていけますから。逆にテキストを準備せず話すだけで講義している先生がオンラインだと苦しんでいます。
河端そうでしょうね。分かる気がします。
髙橋デジタル化の話で今一番身近な例が免許証の更新です。教習所の先生方はオンラインではまともに講習が受けられない、試験ができないなど、いろいろとデメリットを挙げてきますが、講習はそれこそ大学のオンライン授業と同じですし、試験に関しても授業中に実施することも可能です。私も授業中に理解度テストを毎回行いますが、授業を真面目に聞いている人は確実に答えられるので、むしろこちらの方が意義もあると思います。
河端授業をした直後の理解度チェックには特に有効だと思います。我々も英語の単語テストなどをオンラインで行い、タブレットで解答してもらいますが、そうすると何千人対象でも即時に結果を集計できます。正答率を分析し、保護者様にもオンタイムでお子さんの結果をフィードバックできるので非常に好評です。
髙橋将来的にデジタルやAI に人間の仕事が奪われると警鐘を鳴らす人もいますが、前向きに考えれば、デジタル化は今世の中で問題になっている働き方改革を一気に進めるチャンスとも言えます。デジタル化を生かすことで、日本の人口減少問題の解決にもつながるかもしれません。人間が人間らしい生活をするためにもデジタル化は必要ですし、最も良い手段だと思います。
河端なるほど。デジタルとうまく付き合うことができれば、我々の生活はもっと充実するのかもしれません。またそうしていかなければならないと思います。今日は興味深いお話をありがとうございました。
髙橋私も楽しかったです。ありがとうございました。
(対談日2020年11月24日)
髙橋 洋一(たかはし よういち)
1955年東京都板橋区生まれ。株式会社政策工房代表取締役会長。嘉悦大学教授。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官等を歴任。小泉政権・第1次安倍政権ではブレーンとして活躍。2008年、『さらば財務省』(講談社)で第17 回山本七平賞受賞。2020年10月の菅内閣発足時に内閣官房参与に任命される。『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える』(光文社新書)、『「NHKと新聞」は嘘ばかり』(PHP新書)など、著書多数。